Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

  “幕間の幕間”
 


 夏場唯一の祭日“海の日”が第三月曜へとずれ込む“ハッピーマンデー”になって。それが合わさっての三連休。今年のそれは、なかなか恐ろしいことばかりが襲い来て幕を閉じての、さて。

 「結局、賊大の“夏休み”は、いつ始まんだ?」
 「いつも何も、もう始まってるが。」

 賊徒大学の後期試験は夏休み明けにあるんだそうで。履修した講義によっては、教授のセンセーの都合とやらで早くもお休みとなってた者も多かりしであったものの、
『いやあ、バイト入れちまいまして。』
『高校生が急に来れなくなったもんで、そのヘルプにって。』
 実家が居酒屋を経営しているツンさんの店を手伝いにと、何人かがいきなりその夏休みを私用で使っていたりもし。そんな全員の足並みが揃ったのが、先の連休に入る前だったのだとか。
「そういうお前らの終業式ってのはいつなんだ?」
「ん〜? 明日だぞ。」
 もはや定位置なのか、差し込み用のパイプが突っ立ってるところへ柄の部分が差し込まれたのは、どこの海岸ですかと思わせる大きなビーチパラソルで。今日は陽射し対策というよりも、怪しい雲行きだからいつ降って来てもいいようにという設置。ベンチに運ばれてあったクーラーバッグの氷の中にて、よ〜く冷やしたペットボトル。イオン飲料の中に紛れさせといたウーロン茶のを選び出し、タオルで水気を拭ってから、カチッと封を切っての口をつけつつ応じたのは。大学生の、それも大男揃いのアメフト部員の中にあっては、ますますのこと小さく見える、半ズボン姿の小学生の男の子であり、
「小学校には試験休みもねぇからな。さすがに短縮授業にはなってっけど、今日だってちゃんと、算数と国語と社会の授業があった。」
「そりゃ大変だ。」
 この暑いのに授業かよ。おうさ、しかも暑さ盛り上がりまくりの昼に帰れとよ。うんざりだぜというお顔になったは、金髪に色白、見栄えだけは何とも涼しげな、お花みたいな美少年。やっと十歳になったかどうかというお子様の、彼には深刻でもこっちにしてみりゃ あまりに子供々々した言いようへ。洟も引っかけずで相手なんぞしなさそうなむくつけき顔触れが、そんなこたありませんよ難儀なことだなそれはと、眉を下げての親身になっての応対をしていることこそが、何とも滑稽に見える図だったが、
「まあ、今から暑さ寒さへの耐性つけとくのは悪いこっちゃねぇからな。」
 ここからは大人ばりの一丁前な言いようをしつつ、デイバッグ型のランドセルから坊やが取り出したのは、今 流行の二ツ折れのゲーム機…に似て非なりのモバイルツールで。やはり某ゲーム機と同じくのタッチペンを取り出して、液晶画面のあちこちをちょちょいとつつくと、
「さてと。先週のサー・トレの負荷は全員が難無くクリア出来るようになってたから。」
 液晶画面に現れたのは、ここ、賊大所属のアメフト部“フリル・ド・リザード”のメンバーたちの体力や特性をチェックしてある各資料…と来て。
「なあなあ。セットの内容の回数増やされるのと、周回の回数増やされるのと、どっちがいい?」
 にんまり笑う小悪魔様へ、
「う〜〜〜。」
「どっちもヤダってのはダメか?」
 大の男らが拝まんばかりになる相性が、彼らの関係をそのまま表していもする辺り…。小さく華奢な身体つきに、天使と見紛う愛くるしい風貌。だってのに、中身はアメフトを誰より知り尽くし、大学生の猛者どもを顎で牛耳る鬼コーチというのだから、恐ろしい十歳児がいたもので。

 「じゃあまずは、トラック十周っ。」
 「おーっしっっ!」

 まま、これはいつものウォーミングアップだと、特に不平もこぼさなきゃ、だらだらとした態度も見せない辺りが、
“若いもんは元気だねぇ。”
 一番の若いもんが何言ってんだか。
(苦笑) それぞれのポジション別に格差はあるが、平均よりはいい体格をした男衆が、ざくざくと少し湿ったグラウンドの土を鳴らしつつ、一塊りになってのランニングに勤しむ様を眺めつつ、ふと、
「………。」
 金髪頭を風になぶらせながら、坊やの思考が此処から離れる。ちょうど先週、突然現れた叔母さんとは別に、怪しい気配が周囲を詮索して回っていたのが、此処でだった。その直前、セナと一緒に葉柱のお迎えを待っていた公園前にても誰ぞかの気配を…そっちはセナが感じたものの、翌日訊いてみたところ、
『男の人だったよ?』
 セナもヨウコさんのことは、幼稚園に通っていた頃までは逢う機会も多かったのでと覚えており、彼女ではないとそこは断言したほどで。そこへと加えて、

 “大学構内でまで監視してたってのが…。”

 自分じゃあなく、ルイをこそ狙っての監視をしてた奴がいるって証拠。そしてだからこそ、坊やが気にかけ、案じているのでもあって。
『でもそれって、アメフトか喧嘩の方でのお礼参りって手合いじゃねぇの?』
『そうかもな。』
 そのまま とあることを持ちかけて協力してもらった阿含と、あの後も少々打ち合わせをしたのだが、
『それだとするなら、何もあの兄ちゃんだけを狙ってのものじゃないかも知れんぞ?』
 カメレオンズだっけ? 繁華街や幹線道路沿いのあちこちで、ブイブイ言わせてた族なんだろ?と。結構詳しい彼にしてみれば、そういう輩から付け狙われてんのは何も葉柱だけとは限らんのではと言いたかったらしいが、
『でもさ、それへとたった一人で乗り込むもんか?』
『様子見なら何も関係者全員で来なくともよかろうが。』
『喧嘩吹っかけるなんてこと、様子見するほどのこっちゃねぇだろよ?』
 それともこっちの予定を探ってたのか? 雑談へ聞き耳立てての行動を探って、一人になる時間帯を割り出しての闇討ちとか?
『それって思い切り効率悪くね?』
『う〜ん。』
 そこまで慎重に構える敵対者連中が、絶対にいないとは言わないが、

 “そこまでの下調べを重ねたい相手となると、やっぱルイしかいねぇと思う。”

 妖一としては、そこがどうあっても譲れない。無論、何事もなくあってほしいけれど、現に怪しい気配が周辺を嗅ぎ回っているのだし。何と言ってもこれから夏休みだ、相手がもしも学生ならその行動もずんと自由が利く身となるから、その分、危険度も増す。

 “…にしても。”

 あれほど念を押したのに、阿含に手配させた探偵というか調査員というかは、ホントにもう仕事を始めているのだろうか。全くの全然気配がないのもまた、坊やには ちーと気になっていて。
“そりゃあさ、あんまり露骨が過ぎては、ルイに怪しまれるしって話はしたけどよ。”
 もう数日ほどが経っているのに、それらしい誰ぞが視界のどこかに引っ掛かった試しはなく。そりゃあ、自分は…何度も言うようだが、人の気配に敏感な、所謂“達人”とかじゃないけれど。こんな明けっ広げな所での練習とかしている時にも、監視する誰かの影すらまるきり見つからないってのはどうよと、このところではムキになって周辺を見回したりしている始末であり。…それじゃあ本末転倒なんではなかろうか。
(う〜ん) 今日も今日とて、そんなこんなと考えごとへ気を取られていたりしたものだから、

 「何をボーッとしてやがるんだ?」
 「…っ☆」

 不意に、すぐ間近からの声がして。ドッキン☆ 腰掛けてたベンチからお尻が跳びはねそうになった妖一坊や。だってさ、
「何だよ、その反応。」
「うっせぇな。いきなり声かけて来てんじゃねぇよっ。/////////
 一体誰を案じてたんだか。ついつい大声出しての噛みついてしまったその相手こそ。いつの間にかランニングを終え、すぐの間近、坊やの上へ陰が落ちるほどの傍らへ来ていた、Tシャツ姿の葉柱であり。そんな彼からの呑気そうなお声に驚かされた仕返し、精悍なお顔へ向けて“い〜〜〜〜っだ”なんてな可愛げのない報復、精一杯の憎まれ顔をご披露したものの。相手もさすがにそこは慣れており、くすすと微笑っての、

  ――― ぽんぽん、と。

 大きな手のひらがまるでヘルメットみたいに頭へかぶさり、そのまま軽く撫で叩かれては。
「う〜〜〜。///////
 畜生、気持ちいいじゃねぇかと、やや絆
ほだされかかっている辺り。

  “…これが“惚れた弱み”ってやつなんかなぁ。////////

 そ、そうなんですか。いつの間にか自覚してはいたんですね、よういっつぁん。そいや、いつぞやの盲腸騒ぎの時には“告白”もしてましたしねぇvv だからこそなのか、

 「途中から来やがって、周回誤魔化してねぇだろな。」
 「そんなコスイ真似はしねぇよ。」
 「じゃあ何で遅れたんだよ。」
 「ん〜? ほれ、合宿に使う予定してた研修所。
  こないだの地震で影響が出てないかってのを確かめてもらってた。」

 遠いところの他所の話だって思ってなかったか? 思ってねぇもん、一昨年だってやっぱ宿舎のご近所が直撃受けてって話になったじゃんか。あ・そうだっけか。そんな風に軽妙な、所謂“軽口”の叩き合いが始まって、それは楽しそうな笑みが溢れるともう、さっきまでの杞憂もどこへやら。もっと撫でろとお手々はお膝。そうやってお兄さんの大きな手を誘ったり、男臭い懐ろに掻い込まれたりして、こちょこちょと構われるのが嬉しくて嬉しくてしょうがなく。ポーカーフェイスももはや利かない、満面の笑みにてじゃれたりじゃれかかられたりを繰り広げてるベンチへの、

  「……………。」

 遠くからの視線があることへさえ、気づく以前に、眼中になくなっているから世話はなく。何だか波乱の夏休みの幕開けとなりそうな気配? でございます。








  ◇  ◇  ◇



 所謂“新興住宅地”なので、さほどに繁華街という訳でもなくて。駅前にはそれなり、飲み屋やクラブもあったりするが、そういう賑やかさも、大通りに接している2、3区画が限度。幹線道路から離れれば、住宅街だということもあって急に人通りも減ってしまい、家並みの連なる静かな佇まいが宵の中に沈んでいる。どこかで誰かが蹴ったものか、空き缶が転がる音がして。バス停が街灯の下、煌々と照らし出されているのが見つかると、誰の姿もなくとも妙にホッとするよな時間帯。ミュールの踵を、それでもどこか遠慮がちに鳴らしつつ、そんなバス停へと近づいた人物があって。スケルトンタイプのビニールバッグから、不意に鳴り出した携帯の着メロがその足を止めさせた。

  「…出ないの?」

 そうと訊く相手へ、あっと息を飲む。時刻表のついたバス停標識の陰に立っていたのは、待ち合わせていた相手…の筈だったが、この着メロもまたその同じ相手へと設定したものだからで。だが、相手は携帯を手にしてはいない。この矛盾が指すものへ、気がついても…逃げ出さないところがさすがだなと。阿含は着ていたパーカーのフードを頭から剥がすようにして降ろすと、懐ろから取り出したサングラスを目元へかける。

  「ごめんね。それ、雲水からに間違いないと思う。」

 心配して掛けて来てるんだろうから、応対してやってよと。軽く言って来るのへと、
「…。」
 少々強ばり気味でいた細い肩が、それでも萎えたように降り。バッグの中からスリムな携帯を取り出すと、低い声にて二言三言応じてからそっと切る。
「もう縄から抜けられたのか。やっぱ、意識失わせといた方が良かったかな。」
 何とも物騒な言いようをする彼であり、
「お兄さんにまで容赦ないのね。」
「だって、一応は俺が本山の正当後継者だけど、雲水とは5戦やって1つは取られる間柄だもの。」
 油断してちゃあ勝てませんと、しゃあしゃあと言ってから。

  「で。此処で問題です。
   何でまた俺が、雲水の名を騙ってヨウコちゃんを呼び出したのか。」

 妖一坊やの頭に比べれば、やや大人しくも撫でつけられた金茶の髪に、サマーニットのボレロが似合うほっそりした肢体の彼女こそ、坊やの叔母のヨウコ嬢であり、

 「…アタシの何にか、訊きたいことがあったから、でしょ?」
 「ぴんぽ〜ん♪」

 くすすと微笑う表情に嘘はない。彼女を相手に、脅したり怖がらせたりとまでするつもりはなかったが、さりとて誤魔化されるつもりもないらしく、

  「何でまた。雲水とだけ連絡取り合っての、何かゴソゴソしてる訳よ?」

 先日の坊やからの呼び出しにて、このお嬢さんという意外な名前が飛び出したのへ、おややぁ?と思うところがあった阿含だったのは、
「俺だって千里眼じゃあないからね。こないだ雲水の携帯を間違えて持ち出してサ、悪戯心からアドレス浚ってみて。そこに“ヨウコ”なんて女名前があったの見てなきゃ、こういう風に感づきゃしなかった。」
 神様の思し召しってやつ? なに言ってるかしら、他人のケータイ覗くなんてサイテー。そんな応酬を一応はしてから、

  「〜〜〜ったく。」

 かしかしと無造作に髪を掻き回したお嬢さん。そういう仕草をすると、不思議とあの坊やに似ていることが強調されもして。だが、ああこりゃ言い訳を考えようとしているなというのが筒抜けになる辺り、
“こういうのも腐れ縁っていうのかね。”
 しょっぱそうなお顔になった阿含が、

 「もっと具体的に言ってやろっか?」

 そうと言ってから…くすすと微笑って、
「妖一とあの都議の次男はサ、付き合い始めて早や足掛け4年だぜ? そんな奴らを今更調べたいなんて奴、そうそう居るもんかねぇ。」
「だから、それはアタシが…。」
「ヨウコちゃんだったら、何もこっそり調べる必要はないだろよ。」
 現に、もう姿を見せてんだし。なのにどうして、

 「あの兄ちゃんの周辺に、探ってる誰かの気配がまだあるのかな?」
 「それは…っ。」

 どういうDNAなんだか、あの坊やととっつかっつに口が達者なこのお嬢さんが、なのに…徹底して言い逃れが出来ないでいるのは、

 「隠したいと本心からは思ってないんじゃねぇの?」
 「………。」

 視線が降りての、唇が震える。ああ、そういう心細そうなお顔も似ているね。でも、俺がそれを知ってるのは、妖一が選りにも選ってあの次男坊のことで萎んでたのを見たからだ。他でもない“あいつ”のことでさえ、あんなお顔をしたこたなかった、そりゃあ気の強い妖一だってのにサ。


  「ねえ、俺、何にも知らねぇ訳じゃねぇんだ。
   もしかして、ヨウコちゃんはあいつの“つなぎ”なんじゃあ…。」










to be continued....




  〜Fine〜 07.7.15.〜7.20.


  *凄っごい白々しいですね、こんな一時停止するの。(苦笑)
   さぁて、どんな“裏”が隠されていたのでしょうか。
   そしてそれはどんな形で明らかにされるのか。
   待て、しばしっ!(…なんか偉そうですいません。)

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